多くの女性は自分の赤ちゃんを抱いたときに
強い感動とともに幸福感を味わい、
子育ての時期は最も自信と幸せに満ちていたといいます。
「子宝」「子はかすがい」といった言葉が物語るように、
今のお年寄りが子育てをしていた頃の赤ちゃんの存在感は
さらに強かったと思われます。
また多くの場合、出産の経験のない人や男性も
本源的に赤ちゃんを「かわいい」と感じ、
「いつくしむ心」を秘めておられます。
赤ちゃん人形を用いたドールセラピーの意味するところは「認知症だから・・・」ではなく、
その方の潜在的にもっておられる想像性や感性、感情をこころおきなく表出できる対象を提供すること。
それも、赤ちゃんの抱き心地といった「感触」や赤ちゃんのような表情、
語りかけるような目といった「視覚」などを入り口として、わが子に注いだ「感情」をよみがえらせ、
わが子の有無にかかわらず失いかけていた「愛し世話をする対象」「生活の目的」を回復しようというのが、
ドールセラピーなのです。
こうして、赤ちゃん人形によって呼び覚まされた「世話する意欲」や「愛情の記憶」が能動的な行動を生み出し、
他の人との会話や笑顔を生み出していきます。
これまで実際に、多くの方々が赤ちゃん、子育てという自分にとってもっとも自信のある領域で、
生き生きとした表情を取り戻しておられます。それが他とのコミュニケーションにつながっていくのです。
変化が見られるのは赤ちゃん人形を抱いている人だけではありません。
赤ちゃん人形を抱いた人を見る周囲の人の目が変わるのです。
例えば家族や近所の人、入居者同士、病院や施設のスタッフたちが、赤ちゃん人形のかわいさに思わず表情が和らぎ、笑顔で話しかけてきます。
今まで自分を見ていた険しい視線ではなくなる。赤ちゃん人形といっしょにいると、無視されたり見過ごされたりしない。
これは本人にとって大きな変化です。
コミュニケーションが生まれ、感情を表すことができるようになったお年よりや周囲の方々との間には、互いの気持ちを通じ合わせる機会がより多くなることになるのです。
老人ホームに入所しているお母さまに
たあたんをプレゼントされた方から
母にたあたんを見せたところ、いつもけわしい表情をしていたのもどこへやら、ぱっと顔が明るくなり、くつしたをはいていない足を見て「足が冷えてる。早く靴下をはかせなければ」と言いました。いつまでも母親の気持ちをわすれずにいるのだなあと実感しました。以来、たあたんはずっと母と一緒にいます。
同居しているお母さまに
たあたんをプレゼントされた方から
母はたあたんをとても可愛がっています。
その様子を見ているうちに気がついたのですが、たあたんとじっと目を合わせて何か会話をしているような時が一番落ち着いて、穏やかな表情をしています。こんな風に、自分を見つめてくれる存在が必要だったのですね。
ディサービスセンター職員の方から
デイサービスのアイドルです。ロボット犬なども用いてみたのですが、みなさん、すぐに飽きられたようでした。
でも、たあたんはいつまでもみんなの人気者で、外出やバス旅行にもいっしょに行っていますし、プログラムの一つとして、たあたんの服づくりをはじめました。
保育士の方から
担当する3歳児のクラスに、お友達となかなか打ち解けられない子がいたのですが、たあたんを迎えてから、たあたんについてのことならうまくお話ができるようになり、それ以来少しずつみんなと仲良くなりつつあるようです。
障がい児施設の先生から
2年前に購入した《たあたん》を、みんなでかわいがっています。
先日、たあたんの足がはずれて、「骨折してしまった」と子どもたちが落胆してしまいました。買い替えようか悩んだのですが、たまたま人形の修理をしてくださる方に出会い、足を入れなおしていただきました。治療から帰ってきた《たあたん》を見て、「《たあたん》が治った!」と、歓声が湧きました。子どもたちの喜ぶ顔に職員もうれしさをこらえきれませんでした。